実験文化を根付かせる必須条件とは? ~ 目標の統合・共有と組織の意思統一

2017年12月13日 | 広報・PR・イベント運営担当

第1回では、世界のリーディングカンパニーはA/Bテストに代表されるような実験を絶えず繰り返すことによって改善活動を高速化し、イノベーションを生み出していることをご紹介しました。では、あなたの会社が絶えず実験できる組織になるにはどうすればよいのでしょうか?

実験が文化として根付いている企業として、前回ご紹介したようにNETFLIX、Facebook、Google、Amazon、Salesforceなどがよく取り上げられます。こうした企業は毎年様々なアワードで表彰されたり、研究や取材の対象になったりしています。その中で最近あらためて注目されているのが、これらの企業が採用している特徴的な目標管理の手法です。

実験文化が根付いた組織が活用する特徴的な目標管理手法

たとえば、GoogleやFacebookが活用するのは「OKR(Objective and Key Result 目標と主な成果)」と呼ばれる手法です(日本企業でもメルカリ等が活用していることが知られています)。また、Salesforceが活用するのは自社オリジナルの「V2MOM」と呼ばれる手法です。どちらの手法にも共通するのは、目標の統合と共有です。

OKR・V2MOMともに、会社全体の目標に対して経営層から部門、部署、チーム、個人にいたるまで全員の目標が関連付けられ、誰もが見られるようにオープンにされています。これよって目標が会社全体で統合・共有され、全員の意思が統一されやすくなります。その結果、目標達成の手段のひとつである実験を続けることができるというわけです。

そこで、今回は具体例として、Salesforceが採用するV2MOMをご紹介します。

組織の意思統一を実現する目標管理手法、V2MOM

Salesforceが採用するV2MOMは、組織の意思統一を実現する目標管理手法です。V2MOMとは、Vision (ビジョン)、Values(価値)、Methods(方法)、Obstacles(障害)、Measures (基準)という5つの言葉の頭文字からなる造語です。

VISION (ビジョン)
行いたいことや達成したいことを定義します。

VALUES(価値)
ビジョンの追求を支える原則や信念です。

METHODS(方法)
業務の完遂に必要な行動や手順です。

OBSTACLES(障害)
ビジョンを達成するために克服しなければならない課題や問題、難点です。

MEASURES(基準)
求める成果を表し、測定可能なものとします。

V2MOMの作成プロセス ~ 最初にCEO、それから順番にリンク

V2MOMは目標の共有と意識付け、動機付けを強化した考え方です。年度の初め、最初にV2MOMを作成するのは、Salesforceの会長兼CEO、マーク・ベニオフ氏です。経営層で協力して会社としてのV2MOMを作成し、全社に向けて公開し、全社からフィードバックを受けて最終調整されます。

それを基にして、同じ要領で今度はベニオフ氏自身や各役員、次に各部門やそのマネージャー、さらには各チームや社員ひとりひとりが順番にV2MOMを作成していきます。そして、その都度フィードバックを受けて調整されていきます。

自分のV2MOMを作成する最初のステップは、会社のV2MOMとマネージャーやチームのV2MOMを読むことから始まります。そして、自分に最も関係するMETHODS(方法)とMEASURES(基準)について考え、それらと連携するためにマネージャーと話し合ったり、チームの同僚と調整したりしながら作成していきます。

つまり、自分の上位にある会社やマネージャーやチームの成果指標と、自分自身の目標とがリンクしているのが特徴です。順番に作るのはそのためです。

V2MOMの作成基準は「SMART」であること

V2MOMはSMARTな基準に従って作成されます。SMARTとは、明確で実行可能、測定可能な基準を設定するためのすべての要素を考慮するのに役立つ頭文字です。

SPECIFIC(具体的)
具体的 – 何に重点を置き、何をしようとしているかを明確に定義します。

MEASURBLE (測定可能)
測定可能 – 進行状況の指標を定量化します (パーセント、数値、目標など)。

AHIEVABLE (達成可能)
達成可能 – 目標は高く、しかし達成可能な範囲に設定します。

RELEVANT (関連する)
関連する – 基準が、会社とマネージャーの V2MOM の基準に沿っていることを確認します。

TIMELY (タイムリー)
タイムリー – 具体的で妥当な完了までの期間を設定します。

 

SMARTな記述方法のサンプル

SMARTではない基準の例
・・・働きがいのある会社にする。

SMARTな基準の例
・・・Fortuneの2017 Best Companies to Work For(働きがいのある会社)リストの上位30位以内を達成する。

 

会社と社員個人のV2MOMをリンク、全社に公開して意思統一

このような方法で作成することによって、Salesforceのその年度の目標と優先順位や、社員各自の役割、目標、パフォーマンスが、全社的な成功にどのように貢献するのかについて、全社員が明確に理解できるようになります。これこそが意思統一というわけです。そして、全社に公開され、誰もが確認しあうことで意思統一は強化されます。

なお、当然ながら人事評価は公開されません。V2MOMはあくまで目標管理を主眼とする手法です。詳細は、Salesforce Trailheadのサイトを参考にするよいでしょう。Salesforce Trailheadは楽しみながら学べるような工夫も凝らされていて、実際にSalesforce社内でも社員研修で使用しているそうです。

V2MOM を使用した組織内の意思統一の実現 単元 | Salesforce Trailhead

V2MOMの作成方法についてはこちら

V2MOM を作成する 単元 | Salesforce Trailhead

 

V2MOMの活用によるリアルなメリット ~ Salesforceインタビュー

V2MOMの最大の特徴は、会社全体のV2MOMと各社員のV2MOMが関連付いていること、そして、それらが全社の誰もが見ることができるように公開されていることです。

では、V2MOMを実際に使ってみてどんなメリットがあるのか、株式会社セールスフォース・ドットコムにご協力いただき、マーケティング本部プロダクトマーケティングのシニアディレクター、御代茂樹氏と、同じくシニアディベロッパーエヴァンジェリスト、岡本充洋氏にお話を伺いました。

株式会社セールスフォース・ドットコム
マーケティング本部プロダクトマーケティング
シニアディレクター 御代茂樹氏

 

1.いっしょに仕事をするとき、お互いの目標を共有した上で進められる

Q.どんなときにV2MOMを見ますか? 自分以外の誰かのV2MOMを見ることはありますか?

A.御代氏

自分の目標やその進捗を確認するのはもちろんですが、それと同じくらいよく使うのが、社内の誰かといっしょに仕事をするときです。同じオフィス内でも部門が違う社員と初めて仕事をするとき、相手のことをよく知らないということがありますよね。そういうとき、必ずV2MOMを見ることにしています。

V2MOMを見れば、その人のミッションや責任範囲がわかりますので、どんな自己紹介よりわかりやすいです。KPIではなくメトリクスが何項目もあるので、この人は会社において何を達成しようとしているのかわかります。非常に明快です。

 

2.迷ったとき、より上位の目標に沿って判断ができる

Q.社員全員のV2MOMが公開されているそうですが、マーク・ベニオフ氏のV2MOMも見ることができるのでしょうか?

A.御代氏
はい、もちろん見ることができます。議論が煮詰まったり、判断に迷ったりしたときにもV2MOMを見ます。チームとか部門とか全体のV2MOMを確認するわけです。その流れで、ときにはマーク・ベニオフのV2MOMまでさかのぼって考えることもあります。

今期のマーク・ベニオフのV2MOMで重要視されているキーワードのひとつが「ohana」(オハナ:ハワイ語で精神的な意味での「家族」)なのですが、実際に「どちらの案がより『ohana』だろうか?」と考えて判断することもあります。

 

3.困ったとき、問題を共有できる、助けを得られる

Q.Obstacles(障害)が目標管理に入っているのは面白いですね。どのようなメリットがありますか?

A.御代氏
Obstacles(障害)も建前ではなく率直に書くことになっています。経営層も本当に率直に書いていますので、びっくりすることや、思わず笑ってしまうこともあるくらいですよ。その結果、背景がわかりやすく、何にObstaclesを感じているのかが理解でき、問題がシェアされやすくなります。

A.岡本氏
おかげで他人にも自分のObstaclesが共感されやすくなるようですね。あるとき、面識のない誰かから助けになりそうなアイデアが寄せられるということも実際にありますから。

国やオフィスが違っても、職種が近いと必然的にV2MOMも似てきます。そういう相手のObstaclesやV2MOMを見ることでヒントが得られたり、相手に相談したりということもあります。

株式会社セールスフォース・ドットコム
マーケティング本部プロダクトマーケティング
シニアディベロッパーエヴァンジェリスト 岡本充洋氏

 

実験駆動型組織のモデルともいえる、常に多くの実験を繰り返すSalesforceの実験文化。

Q.(前回のコラムを参照して)Salesforceは実験文化が根付いた組織、つまり実験駆動型組織と言えるでしょうか?

A.岡本氏
あまり意識したことはなかったのですが、こうしてお話していて、常に実験を回しているということに気が付きました。すでにそうなっていたという感じでしょうか。Salesforceはあともう少しで1兆円規模の売上になるのですが、ここまで来られたのも常に実験を繰り返してきた結果だと思います。

 

Q.どのように実験に取り組んでいますか? いくつか教えてください。

A.岡本氏
SalesforceのシステムにR&Dプログラムというものがあります。そこではこれからリリースするかしないかまだわからないサービスを実際にお客様に試していただく場が提供されています。お客様にR&Dのスタッフとチャットしながら新機能を試していただいて、実際にニーズがあるのか確認しています。

また、公開されているものではIdeaExchange (アイディアエクスチェンジ)というサイトがあります。ユーザ同士やSalesforceのスタッフとの間で、新機能に関するアイデアの投稿、そのアイデアへの賛成投票や意見交換をリアルタイムにやり取りすることができます。常にお客様のニーズを伺いながら、常に多くの実験を繰り返しています。

IdeaExchange – Salesforce ユーザ向け活用支援サイトhttp://successjp.salesforce.com/ideaexchange/

Q.そういえば、Salesforceには2つのUI、Lightning ExperienceとSalesforce Classicがありますが、これも実験と考えてよいでしょうか?

A.岡本氏
SalesforceにはLightning ExperienceとSalesforce Classicという2つの異なるデスクトップユーザインターフェースがあります。 製品開発チームがLightning Experienceをリリースする時には、多数のUIパターンを作っています。また、構想(パイロットプラン)についても細かく実験しながら作っています。開発プロセスはビジネスに直結していますので、常にお客様に評価していただきながら実験を繰り返しています。

 

まとめ

実験文化を根付かせる必須条件は、目標の統合・共有と組織の意思統一

Salesforceでは全社の目標を個人レベルの目標まで関連付けて落とし込み、会社全体の意思統一を図っています。そして、御代氏のコメントからわかるとおり、その目標にフォーカスしたコミュニケーションやチームワークが自然発生的に生まれるなど、社員ひとりひとりの日常業務レベルにも目標への意識が浸透しています。

同時に、岡本氏のコメントからわかるとおり、Salesforceは実験を日常の業務として常に繰り返しながら成長し続けています。それができるのも、実験という方法を含む日常業務の目標が、全社の目標から個人レベルの目標にまで密接に結びついているからこそと言えるでしょう。

会社全体の目標と社員ひとりひとりの目標を統合・共有して意思統一を図ること――基本的なことではありますが、なかなか実現できない理想ではないでしょうか? Salesforceでは、今回お話を伺っただけでも、第1回でご紹介した「成熟した実験駆動型組織」の特徴に通じる部分が多数見られました。実験を繰り返すことでイノベーションを起こし、成長し続ける組織になるカギは、実はこうした会社や組織としての基本的な部分にあるのかもしれません。

目標が定まり意思統一ができたら、次は社内の体制づくりや資源配分ということになります。次回は実験駆動型組織の体制づくりについて考えてみましょう。

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