前編では、インターネットとの出会いや創業の想いなどを話し合った両社長。後編では、「ネット×リアル」で可能になる、地方創生の具体的な取り組みや夢を語り合った。
必要なのは、誰でも発言できるコミュニティと空気感
甲斐: 今取り組んでいる活動に、地方創生支援事業の「さぶみっと!ヨクスル」があります。日本各地で問題意識を持っている人たちが集まれるコミュニティを作って、ネットもリアルも使って地域をよくする提案などを話し合う場です。
デジタルマーケティングを事業にしていると、お客様は本社のマーケティング部門ということが多いです。そうすると、東京とか大都市にある大手企業の割合が高くなってきます。しかし、日本中を見渡せば、中小企業しかり農家しかり、いろいろな経済の担い手がいます。
「自分たちが作ったサービスを日本のトップ数パーセントのお客様のために提供するだけではなく、自社が蓄積してきたノウハウを日本全国の地域に活かせるんじゃないか」と、そんな想いがあります。
一方で、将来日本の大手企業は海外を拠点にする可能性もないわけではありません。そうなったとき、日本の経済の担い手は地域の中小企業になります。それに備えるためにも、なにかしておきたい。そんな経営の問題意識もあって、この取り組みを会社としてやっていこうと決めました。
高橋: 各地方には熱意あふれる人たちが必ずいますから、そういった人たちが集まれるこうした活動は大事ですよね。特に地方は小さな会社が一社廃業しただけで、そこにいる従業員もその家族も食べていけなくなる事態が生まれ、結果、人口が減って商店街も寂れて……と、負の連鎖につながるおそれも否めませんから。
甲斐: 我々も関西から出てきた会社ですから思うんですけど、地域がよくなれば、日本全体がよくなりますよね。日本全体がよくなれば、もちろん広告やデータ活用の予算も出てくるでしょう……、というのは余談ですね(笑)。
さておき、地域をよくするためにみんなが知恵を持ち寄って前向きに話せる場所を作りたいと思っているので、現状ではまだ結果は問わずに、とにかく話し合ってもらうことに重点を置いています。結果を問うのを急ぐと、みんな「これは難しい」「リスクがあるからダメだよ」で終わってしまいかねないので。
世の中、「こうすればいい」と思っても、諦めている人が多いと思うんです。高橋社長が取り組まれた中小企業のM & Aにしても、課題やニーズがあることが分かっていても、「これは無理だ」と諦めてしまう人が多かったんじゃないでしょうか。
声を上げずに諦めてしまう理由は、発言できる空気がないだけで、多くの人はなにかしら問題意識を持っています。いろんな声が埋もれてしまわないように、どんなアイデアでも発言していいという場や空気を作ることが大事だと思っています。
高橋: 甲斐社長はよくご存じだと思いますが、ネットバブルの時は、一気に起業する人が増えましたよね。当時に近い形で、起業やM & Aをすることがかっこいいと思う人が増えて広がっていくことが理想です。
起業することやM & Aにより事業を始めることが当たり前になった途端、多くの人が関心を持ち始めると思うので、我々はどうやればそのような状況に到達できるのか、思案しているところです。
一つ、そこで大きいと考えられるのはコミュニティの存在です。新しいことを始めようとしたときに、知識や方法等何も知らない状況では始めることができないんですよね。同僚や仲間がいないと進めるのが難しいけど、一緒に目指している人や同じような環境にある人がいると力になる。
だから御社の取り組みは素晴らしいと思います。地域の人たちが「やれる」といった、そういう気持ちになることが私は一番大事だと思っています。そして、その取り組みが多くの人を巻き込み、大きくなるとすごいことが実現できるんじゃないかと。
甲斐: いま、「さぶみっと!ヨクスル」では高校生をはじめとした子どもたちの参加も増えているのですが、子どもたちの方が社会を知らない分、スイッチが入りやすくて、意見を聞いた大人たちがハッとしたりしていますね。
我々から見ると各地域はそれぞれ特色があって、それはすべて宝だと思います。それなのにそこに着目してなにかを生み出そうという人がいない。だからただの宝の持ち腐れになってしまっています。
発言できる空気を作って、なにかを始めようとする人がいれば、そこから大きなプロジェクトがスタートしたり、会社がうまれるかもしれない。
まだインターネットで問題解決をするまでには至っていませんが、なにかを解決しようという手段として、デジタル技術は答えを持ってくることができる、世界を変えられる武器になるのは間違いないと思っています。
トランビの場合は、逆にネットを通じて知り合い、交渉の際にユーザー同士が直接会うことになるケースが多いわけですよね?
高橋: そうですね。我々のプラットフォームはM & Aのプロセスでいうと入り口の部分にあたります。M & Aは、売り手と買い手が出会って、その後、成約に至るまで時間が長く掛かります。
初回の面談を終え、基本的な合意に至った後、デューデリジェンス(監査)をやって、最終契約を結ぶといった形で進んでいくのですが、長いと半年から1年程の期間が掛かります。
だからインターネットを介して知り合う部分は、本当に最初のプロセス、始まりの一瞬です。
とはいえ、M & A専門家に依頼する従来の方法で最も難しいとされる買い手探しが、トランビのサービス上であれば、平均10日で10社以上の買い申し込みが寄せられます。そう考えると、インターネットとリアルの両方がなければ、中小規模の会社はM & Aといった選択肢に挑戦できないのが実際だと感じます。
甲斐: 地元の課題はその地元の人たちで解決できるのが理想ですけど、一方で東京には新しい情報を取り入れながら視点を磨いているような人たちがたくさんいます。
そんな人たちが地域や地方に行くことによって、地域に埋もれている宝を発掘できることもあって。そういったときに御社のように、インターネットで誰でもアクセスできるものがあるっていうのは大きいと思いますね。
起業する人も多い時代になりましたが、経営をしてきて実感するのは、0を1にするよりは、1を10にするほうがよっぽど簡単なんですよね。今あるものを活かせるという点でもM & Aは有効ですね。
高橋: 売り手が掲載した案件の所在地に対して、申し込みを行う買い手の居住地もさまざまですから、シャッター街と化してしまった商店街にほかの地域から経営者が移住してくれれば、街の活性化も期待できるかもしれません。
社長の平均年齢と会社経営の活発度は相関している部分も多いと考えられるため、高齢の経営者から若い経営者に会社が引き継がれた瞬間、売上が伸びることも多々あります。
M & Aで若い経営者に事業承継してもらうことは、地域としても会社としても大きなインパクトが生まれることになるんじゃないかと思っています。
甲斐: 過疎の問題がある地域の高校で話をしたことがあります。子どもたちは高校を卒業するとその地域を出ていくんですけど、ほとんどが親の意向なんですよね。子どもたちはこの地域で暮らしていきたいと思っていても、親が心配して、「こんなところじゃ生活できない、都会のいい学校を出て都会で働きなさい」といって出してしまう。
地域のなかで大事だと思うのは、「地域愛を持っているか」ということです。住み続けられる地域というのは、圧倒的に個性がある街ですよね。住民が地域に愛着を持っていて、何とかしようと思っている。歴史や文化でも地元のスポーツチームでも何でもいいのですが、そこを地域の産業に結び付けていけるように考えないと、この流れは変わらないでしょう。
イノベーションが生まれにくい日本社会に強い危機感
高橋: トランビでは、アメリカのベンチャー企業の紹介もしているのですが、結び付けるといった点では、インターネットによって海外との距離が近くなったという感覚はありますね。かつて感じたようなアジアやアフリカの国々は日本より遅れているというような感覚はありませんし、場合によっては我々より進んでいることもある。
先日、日本銀行の方から聞いたんですが、日本は先進国でキャッシュレス化が一番進んでいない国だそうです。なぜかというと、「現金を離島や山間部の隅々にまで送る物流がうまく行き過ぎているから」です。
例えばですが、スウェーデンの山奥ではATMがなく現金を送金する手段もない。そうなるとキャッシュレスにするしかないわけです。技術は必要に迫られて進歩しますから。
つまり、日本は少し前まではサービス等がすごく進んでいたにも関わらず、結果として、今では一周回ってほかの国より遅れる状況もでてきている。こうした状況にけっこう危機感を持っています。
甲斐: おっしゃる通りですね。弊社が12年前に中国に進出した頃は、明らかに社会が日本より遅れていました。ところが、インターネットが普及して世の中の多くがデジタルで動くようになってきたら、より活用されている中国の方が便利になっているんですね。ASEANもしかりで、ビジネス環境の変化でみんな同じ条件になったのに、日本はどうするのかとなりますよね。
例えば、日本の平均年齢が40代に対して、ベトナムはまだ20代。高齢になると人間保守的になると言われますから、それだけで会社は変化に対応できなくなっているかもしれません。
若い人だったら怖いもの知らずで「やってみたらできちゃった」ということがあっても、年齢が上がるとともにできなくなる気がします。そういう基礎条件というところで弱っている可能性がありますよね、日本は。
高橋: インターネットが発達したことで、世界中にいろんなツールが広がり、同じ環境で挑戦できるようになりました。にもかかわらず、日本社会が遅れ始めています。
カンバン方式とかコストダウンといった「ものごとの改善や効率化」は上手だけれども、創造性を働かせてないものを創っていく、「0から1を生み出す発想のチカラ」が弱いと耳にすることもあります。
そうだとすれば、創造力や発想力を発揮できる人をもっと増やしていかないと、日本経済は活発化していかないし、ほかの国にどんどん差をつけられていってしまうんじゃないかと危惧しています。
甲斐: その解決の糸口になることを期待して、「さぶみっと!ヨクスル」と並行して、新規事業創出をめざすビジネスパーソンたちのコミュニティ「DEJIMA式」を、伊藤忠テクノソリューションズさんと一緒に作っています。
大企業でも、「アセットはあるけど活用するノウハウがない」とか、「アセットがなにを解決するかわからない」といったことがよくあります。つまり、作ったものの、活かせていないと。一方で、「問題は抱えているけどアセットがない」という企業もありますから、それを繋げることを始めています。
この「DEJIMA式」は「さぶみっと!ヨクスル」で集めた課題を企業の中堅クラスのビジネスパーソンに選んでもらって、自分たちの会社がどう解決できるかを話し合って発表してもらう取り組みです。
話し合い後に本当に取り組みたいなら、マッチングも行います。大企業のアセットを使えると解決できる問題が増えて社会もよくなっていきますし、解決した人たちのなかから、自分も起業家になってみたいと思う人が出てくることを期待しています。
高橋: オープンイノベーションって、まさにそういうことなんですよね。一つの組織だけで問題解決するのではなく、繋がって、巻き込んで巻き込まれて、問題の解決方法を考えていかないと、新しいことは生まれてこなくなっているんじゃないか、そう思っています。
甲斐: 日本人に限らないかもしれませんが、人間って今やっていることの枠組みに入っちゃうクセがあるから、こういった話し合いを通して、フラットにモノを見られるクセをつけられるといいですよね。デジタル化っていうのは世界のフラット化の原動力で、これからもっとそういう社会になっていくので、難しく考え過ぎずに「なんだ、こうやったらできるんじゃない?」くらいの気持ちになるといいんですけどね。
ウィンドーショッピングから生まれる自由な発想 挑戦者を生み出す環境を
高橋: 弊社のサービス上で、売却案件として登録された温泉旅館がありました。これを例に挙げてお話しますと、従来のM&Aの場合、売り手から依頼されたM & A専門家が買い手を選ぶので、普通は温泉旅館の売却案件なら、同じ業種である温泉旅館に購入の打診を持って行きます。
ところがトランビのサービス上では選ぶ主体が逆になり、買い手が直接売り手を選んで買い申し込みを行うので、異業種であるクリニックとか病院の経営者が買い手として手を挙げたりします。「クリニックが温泉旅館を持てば、ちょっとリゾート気分の高級な人間ドックができるだろう」という発想なんですよね。
トランビのサービスは、売却案件を自由に見ることができますので、会社のウィンドーショッピングといわれます。買い手側も最初からこれを買いたいと意志を固めている人よりも、いろいろな案件を眺めているうちに、「あ、うちがこの業種に取り組んだら、こういうことができるかもしれない」と考えることも多いようです。
それは一種エンターテイメントのような感じです。そのためか、ユーザーに自由な時間ができる夜の時間、21時以降にサイトアクセスが上昇する傾向があります。
夜、ゆったりお酒でも飲みながらサイトを閲覧して、言うなれば妄想している時間にあたるのではないでしょうか。この発想を広げる行為が重要で、買い手にとっては楽しい時間なんです。
甲斐社長がやられているネットワークもそういう場だと思うんです。いろいろな人と会うことによって、いままで気づいていなかったことに気づく。こういう環境をどれだけ提供することができるか、社会にとってすごく大きなことだと思います。
甲斐: ウィンドーショッピング、重要ですね。夜にトランビのサイトを見ているときって、他人事なわけですよ。それぐらいの気持ちで見ているから、真面目すぎるとも言われがちな日本人でも発想がフラットになるのかなと。
私自身、事業を変えていくときにはまったくゼロからはやらなくて、再定義するんです。今行っている事業を見直してみて、こっち側からやっていたけど、他の方面に変えたらどうなるか。
そうすると4とか5を足せばいいだけなので、実現する力が出てくるんです。こういうのも創造力、発想力だと思いますし、意外とみんな得意なんじゃないでしょうか?
例えば、野球観戦している人のなかには、素人なのにいい分析をする人もいますよね。監督になったほうがいいというような人(笑)。そういうセンスはあるんだから、他人事のウィンドーショッピングくらいのスタンスでみんなが買い手になれば、価値ある会社やおもしろい会社ができるんじゃないかと思いますね。
高橋: そうなんですよ。高級人間ドックの発想を5人がしたとしても、実際に買って経営をしてみると1年後の結果は一人ずつ違います。内装も価格設定もサービス内容も告知方法も。
結局、経営ってアートみたいなものであり、発想を生み出すチカラとそれを実現するチカラが経営者にどれだけあるか。それがとても大事だと思います。
事業に取り組む・経営をするって、いろいろなことを試す中で失敗もしながら学び自分を磨いて能力を高めていくしかないと考えています。
トランビが提供しているサービスは、そういった挑戦ができる環境を作ること。一回目では上手くいかなくても、何度か挑戦する中できちんと学び、自分を磨き続ければいつかはそのプロセスが活きて成功につながる。だからこそ次の挑戦に進める環境を提供することこそ、社会の仕組みとして、とても重要だと思うんです。
トランビは、挑戦したあと上手くいかなくても、その案件を売って次の挑戦に備えることができます。また別の案件を買って、新しい挑戦をすることができます。売り手が買い手にもなり、買い手が売り手にもなり、そういった循環を可能にする我々のサービスには、挑戦者を生むといった意義もあると思っているんです。
どんなに理想を高くもっていても、どんなに能力がある人でも、事業に取り組む・経営をするって簡単なことではないので、上手くいかない可能性は誰にでもあります。だからこそ、たとえその時は上手くいかなくても、また挑戦ができる環境さえあれば、挑戦したいと思う人がもっと出てくるのではないかと思っています。
「繋ぐ」と「結ぶ」から生まれる日本の未来
甲斐: 若い人がそうした「会社を自分でアレンジして生きていく」みたいな、そういうことが普通になってくれば多様な会社がどんどん生まれて、日本社会も面白くなりそうですね。
もしこれから弊社が御社と協働でやるとしたら、人とのマッチングですね。やりたいことはあるんだけど、ツテがない方が多いんですよね。
そういう方々と、ある程度まで取り組んで商品やサービスを作り上げたけども、このままでは今一つだと思っている会社が出会うことで、新しい事業を生みだせるようになればいいと思いませんか?
高橋: ありがとうございます。トランビはもともと中小企業の経営改善プラットフォームとしてスタートしているんです。
経営者にとって、会社を成長させる上で、M & Aは一つの選択肢でしかありません。だからこそ、弊社サービスを活用してくださる会社様の状況を見ながら、どんなサービスが望まれるのか、望ましいのかを追い求めていきたいと思っています。時代時代のニーズをとらえる御社のマーケティングをぜひ学ばせてください。
甲斐: 先ほどデジタルを分解すると「繋ぐ」と「データを残す」に分けられるとお話しましたけど、両方使えたら一番いいんですよね。「繋ぐ」はフェイスブックが、「データを残す」はグーグルが一番うまくいっていると思うんです。
うちの会社はデータを集めてどう活用するか、どうサポートするかが商品になっています。でも、それだけだと効率的にはなっても、新しい創造にはならない。だから「繋ぐ」ことをしていかないと、日本社会自体が楽しくなりませんからね。
高橋: 我々のサービス上では、まずマッチングという「繋ぐ」が先にあって、そのあとにユーザーのいろいろなやり取りが発生する状況にあります。「データを残す」という観点において、中小企業をよくするために我々が一番興味を持っているのは、M&Aの成約後に各企業の経営がどう改善されていくのかという部分です。
先ほど例で挙げたクリニックが温泉旅館を買うといった案件に関連していえば、みんなが上手くいくのかというとそうでもない。そうであるならば、上手くいく場合はどこに差があるのか等といった事情を、時間は掛かるかもしれませんがわかるようになれば、経営者の方にとっておもしろいサービスになるんじゃないかと思っています。
甲斐: 経営って、アイデアがスパーンとはまって成功することもあれば、力技で持ち直すこともあって、両方が必要ですけど、どちらにしても、一番必要なのは「やりたい」という気持ちです。うまくいかないときにやっちゃいけないと思うのは、自分で分析して、その分析が結果になってしまうことです。
私の場合は負けを認めません。負けなきゃいつか勝つからです(笑)。それを突き詰めていくと、そもそも今自分がやっている仕事はやりたかったことなのか、ということになっていくんですよね。
私自身はやりたいことがどんどん浮かんでくるタイプなんですが、社員全員がそういう気持ちを持っているわけではないということは、働いていくうちに分かりました(笑)。やりたいって言うから任せてみても、実はそこまででもなかったとか…。とはいえ、多かれ少なかれ社員がやりたいことは実現したいと思っています。
高橋: そうですよね。アスク工業で以前、社員に1カ月で2件、新しい事業のアイデアを出してもらっていたんですが、このやり方は失敗でした。義務的にアイデア出しを課してしまったので、誰でも思いつくようなアイデアばかりがでてきてしまい、製品化や事業化に至るアイデアはありませんでした。
そのためやり方を改めて、「予算は出すから好きな事業を考えてください」にしたら、一気に出てくるアイデアの質が変わりました。提案数は減りましたが、質が良くなって、社員も楽しそうになりました。
自分で決めていいと言われた瞬間、人は考えることが楽しくなって発想力が生まれる。組織なら、「やれ」じゃなくてやりたくなる雰囲気を作ることが重要だと思うので、そんな雰囲気を増やしていきたいと思っています。
甲斐: やらされると、人って常識で止まるんですよね。でも好きなことって常識超えていて。おまえ変わってんなっていうものが出てくるので。そこですよね。
高橋: まさにそうですね。つい、正解を求めてしまうんですよね。一方で、ビジネスの世界に正解はない。
甲斐: これも日本人に限らないかもしれませんが、すごいなと思うのは「磨く力」です。それが変わり者のレベルまでいったときに創造になる気がします。
例えばラーメン屋さん。日本中にものすごいバリエーションのラーメン屋がありますよね。それぞれの店主が自分の求める麺とかスープとか具材といったこだわりを極めていくから、日本中に特徴の違うラーメン屋がたくさんある。
そうした磨き上げたものを生み出すのって、それこそ、中小企業の出番だと思うんです。大企業は万人受けするものを世界中に向けて広げるのが仕事ですから。
ゼロから考えられなくても、トランビに素材はあると思うんですよね。コンビニを買えるくらいの金額で、工場も従業員も手に入って、世界に向けてなにを作って売っていこうとか。スタート地点がずいぶん変わりますよね。アイデアのレベルの高い人たちがいて、事業承継に困っている会社が結びつけば、ふつうに面白い会社ができてくるんじゃないかと。
必要なものは「想い」
高橋: 「やりたい気持ち」というお話がありましたが、トランビでは1案件に平均で10社以上の買い手が集まります。売り手が買い手を選べる状況なら、普通は一番高い値段をつけた買い手に承継しそうですけど、実際はそうなっていません。初回でお会いしたときに話が合うかどうかが重要視されています。
「会社を買った後、私はこうしたいと思っています」というのにどれだけ共感してもらえるか。そういう意味では、単純なマッチングはあまり意味がないと思っていて、結局売り手と買い手がコミュニケーションをきちんと取ることができるかがとても重要で、想いの強さとかその事業に対する愛情、そしてそれを行動に移すチカラをもっている人じゃないと経営は続けていけないと思うんですよね。
甲斐: やはり人の想いとかつながりっていうのが本質にあって、それを拡張するためにインターネットが使われるのが今は望ましいと思いますよね。
日本はインターネットの使い方に関しては上手な国だと思うんですけど、課題は使い過ぎです。アナログで信頼関係を築かずに、効率だけを求めてすべてデジタルにしてしまうと、何も前進していないということになりかねません。
統計上では、日本の経済はこの先さらに人口が減って厳しい状況に入っていきますけど、それはこれまでの経済のものさしでみたときであって、違うものさしをどう作るか。例えば事業愛がエネルギーになるなら、プラットフォームや仕組みが合わさることで素晴らしい会社が生まれるんじゃないか。それは従来の「1,000万台売りました」ではない価値を生み出すかもしれない。
私は自分で起業して仕事を見つけられたのは幸せだと思っているので、社員を経営者にしたい気持ちは強いです。経営することは生きる力ですから。それをさらに広げて、社会全体が「一人でもなにかできる」というようになれば、もう人口減少も関係ないだろうと思うんです。そういう社会になるように私もこれから活動をしていきたいと思います。
高橋: うちも社員に「会社を買って社長になってくれ」と言っています。副業OKにしていますから。理由の一つは、プラットフォーム側としてオーナーさんの気持ちをわかっているかということがありますけど、もう一つは、経営の経験はその人の大きな資源になるからです。
甲斐社長のおっしゃるとおり、経営は人生そのものですから、我々ももっと力をつけて経営者を目指す人を増やしたいですね。そのために、買い手へのインキュベーション、つまりお手伝いやフォローが必要です。M & Aにおける買い手は挑戦者といえますから、買った後のことももちろん、会社なんか買わずに自分でやるっていうこともあるでしょうし、最終的にはそんな挑戦者すべてのメンターのようなことをしていけたらと思っています。
取材・文=干川美奈子 写真・動画撮影=岩國英昭
Profile
株式会社トランビ 代表取締役 高橋 聡
長野県長野市出身。長野高等学校卒業。デュポール大学 情報システム学科卒業(アメリカ-シカゴ)
2001年、アクセンチュア株式会社入社。通信ハイテク本部にて、大規模システム開発プロジェクトに従事。2005年、家業であるアスク工業株式会社に入社。2010年より代表取締役(現任)。2011年7月に、事業を譲りたい方(売り手)と事業を引き受けたい方(買い手)をインターネット上で直接マッチングするユーザー投稿型の事業承継・M&Aプラットフォーム『TRANBI(トランビ)』をスタート。2016年「TRANBI」のサービス向上の為、株式会社アストラッド(現トランビ)を設立し、同社代表取締役に就任
事業承継・M&Aプラットフォーム TRANBI【トランビ】
株式会社イー・エージェンシー 代表取締役 甲斐 真樹
大阪府枚方市出身。同志社大学経済学部卒業。
1995年、インターネットとの出会いと可能性に衝撃を受けて起業を決意。大学時代の後輩らとともに日本発の検索エンジンサービス「JAPAN SEARCH ENGINE(その後『DRAGON』に改名)」を立ち上げる。以後、情報化社会を豊かで快適なものにしたいという思いの下、Webソリューション事業、Webマーケティングプロダクト事業などに領域を広げる。現在では「データドリブン・マーケティング・エージェンシー」として、ビッグデータ活用などデジタルマーケティング支援事業、SaaSクラウドサービス事業などを軸に、国内外でビジネスを展開している。
地元創生プロジェクト【さぶみっと!ヨクスル】
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