2009年05月11日
ヤフー VS グーグル–見られるリスティング広告はどっち?
奥井夏子
インフォメーションアーキテクト
前回の記事にて、ユーザーが「見る広告」「見ない広告」について検証しました。その中で、「Yahoo! JAPANの旧デザインではリスティング広告が見られていないが、新デザインではどうだろうか」という疑問を投げました。今回はそのリスティング広告について、再度検証しました。
今回の被験者には、Yahoo! JAPAN、Googleの両方を使って何らかの調査をしてもらい、その検索結果画面がどのように見られているかについて検証しました。被験者は20~30代の男女混合5名です。なお自然なユーザー行動を検証するために、被験者達はリスティング広告の検証であることは告げられていません。
さて、Yahoo! JAPANとGoogle、よりリスティング広告が見られるのは、どちらの検索サイトなのでしょうか。Yahoo! JAPANのデザイン変更は、結果にどれくらい影響を与えることになるのでしょうか?
ユーザー視線の動きに歴然とした差が…
下の画像2は、被験者B(20代男性)が、生命保険を比較するために検索をした時の視線の動きです。
画像2:黄色の線はユーザーの視線の動きを、黄色の丸の大きさはユーザーの視線の
滞在時間の長さを示す。Yahoo! JAPANのリスティング広告(右の青枠で囲った部分)
はユーザーの視線をとらえている。一方Googleのリスティング広告(同左)には
全く目が向けられていない(※画像をクリックすると拡大します)
Googleのリスティング広告が全く視線を向けられていない一方、Yahoo! JAPANのリスティング広告はユーザーの視線をとらえていることがわかります。
GoogleとYahoo! JAPANでは視線の「スタート地点」が違う
被験者の視線の動きを動画で見てみると、さらに興味深いことがわかります。下の動画は別被験者E(30代男性)が「転職」というキーワードでの検索結果一覧を見た時の視線の動きです。被験者の視線のスタート位置に注目してみてください。
Googleにおいては、リスティングエリアではすばやく視点を下に移動させ、オーガニック検索結果から閲覧を始めている。
一方、Yahoo! JAPANでは、検索結果画面が表示された直後から、リスティング広告を含め上から順番に見ています。
Yahoo! JAPANのリスティング広告がユーザーにとって「読むべき対象」となっている一方、Googleでは、「対象外」となってしまっていることが、動画を見るとはっきりとわかります。
Yahoo! JAPANのリスティング広告を見てしまう理由
今回のテストでは、程度の差をこそあれ、被験者5人中5人全員が、Yahoo! JAPANのリスティング広告の方により視線を落とす、という結果が出ました。以下は、被験者達の声になります。
前述の被験者Eは、事後インタビューで「Yahoo! JAPANはリスティングエリア幅が高いので見やすかった」と答えています。「幅が高くて読みやすい」原因の1つは、Yahoo! JAPANの方が検索結果上部にあるリスティング広告の数が多く、リスティング広告エリアが広く取られているためです。キーワードによっては、検索結果画面の約半分をリスティング広告が占めています。
そこまでリスティング広告エリアが広いと、ユーザーが自然とそこに視線を落としてしまっても不思議ではありません。加えて、そのデザインがオーガニック検索結果に近いものであるため、ユーザーは「広告だ」という圧迫感を覚えず、結果「読みやすい」と感じるのではないでしょうか。
別の被験者D(20代男性)は、インタビューで「普段Googleを使っているので、Googleの検索結果画面の真ん中あたりから見る癖がある。それが、Yahoo! JAPANの検索結果では、ちょうどそれがリスティングのエリアに当たるので、つい見てしまった」という興味深い発言をしています。
画像3:Yahoo! JAPANの場合、画面のおよそ半分がリスティング
広告(ディスプレイの解像度が1280×1024の場合)だが、
広告だという圧迫感がない
Googleのリスティング広告は反射的に避けてしまう
「Googleの検索結果画面の真ん中あたりから見る癖がある」ということはつまり、この被験者はGoogleで、通常リスティング広告の下から検索結果を見ているということです。その他の被験者にもインタビューしてみると、「『(検索結果で)広告を見るぞ』と意識しない限り、Googleのリスティング広告を条件反射的に避けてしまう」という声が数名から聞かれました。
同じリスティング広告でも、被験者の中には、
・Google:条件反射的に避ける
・Yahoo! JAPAN:読みやすい
という意識の違いがあります。ただ、Googleの検索画面において、上部のリスティング欄を見ないがために、視線が右のリスティング広告へ流れていく場合もあるようです。
画像4は、被験者C(30代男性)が、マンション購入を検討しながらGoogleの検索結果を閲覧した際の視線の動きです。上部リスティング広告が見られていないのは他の被験者のときと同じですが、視線が右側のリスティング広告へ流れています。これはYahoo! JAPANの検索画面では見られなかった視線の動きです。
テスト結果まとめ
今回のテストでは、「リスティング広告は、GoogleよりYahoo! JAPANの方が見られた」という結果になりました。
前回の記事では、「(デザイン変更前のYahoo! JAPANでは)ユーザーはリスティング広告を見ていない」という結果が出ていましたが、今回のYahoo! JAPANのデザインの変更により、大きく結果が変わったと言えるでしょう。
インタビューでは、どの被験者も「(Yahoo! JAPANのデザインが変わろうと)広告だということは分かっていた」と答えました。ただし、リスティング広告欄のデザインが、よりオーガニック検索結果のデザインに近づいたことで、ユーザーの持つ広告苦手意識が払拭され、心理的ハードルが下がったと考えられます。
ウェブにおけるおもてなし:ユーザーの邪魔をしないこと
今回のテストではGoogleのリスティング広告が見られることはありませんでしたが、被験者からは、「広告も含めて情報収集しようと思っている場合は、リスティング広告も選択肢の1つとして見る」という声も聞かれました。
テレビCMは受動的にユーザーの目に入ってくる広告です。これに対し、リスティング広告のように、ユーザーが自発的に何かの情報を探しているような状況下で目に入る広告は、ユーザーが「必要だ」と感じて初めて、自ら目を向けるものなのかもしれません。
デパートの高島屋では、「ご要望があるまで販売員からのお声がけを控えるおもてなし」というサービスが導入されているそうです。これは「うるさいことを言われずゆっくり買い物をしたい」という顧客への配慮だと思いますが、ウェブ上でも同じような配慮が必要なのではないでしょうか。リスティング広告においては「どれだけ目立ってユーザーの視界に入るか」ではなく、「ユーザー行動の邪魔をせず必要とあらば情報を提供する」というスタンスが、今後のウェブにおけるおもてなしを考える上でも必要なのかもしれません。
本コラムは、奥井がCNET Japanにて連載している「視線が明かすウェブ制作の常識・非常識」にて2009年2月18日掲載された原稿です。
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