2009年04月10日
ユーザーが「見る広告」「見ない広告」–ユーザーの行動を決める要素とは?
奥井夏子
インフォメーションアーキテクト
「どんなサイトのどんな広告をユーザーは見るのか」――これは、広告主もメディア運営者も非常に興味ある事項ではないでしょうか。
今回は、いくつかの大手サイトを男女計5人の被験者に自由に閲覧してもらい、ユーザーがどの広告に目を引かれていたのかをアイトラッキングマシン(被験者の視線の動きを追跡するツール)を使って検証しました。はたしてどんな結果が出るのでしょうか。
口コミに夢中で広告見ず
図1は@cosme(アットコスメ)を見ていた被験者A(女性、20代後半)の視線です。右側に配置された広告は全く見られていません。被験者Aはトップページから迷わずユーザーの感想が書かれているページへと行き、その後ずっと口コミを丹念に見ていました。また、口コミ以外の要素には全く目を向けませんでした。
米オンライン出版協会(OPA:Online Publishers Association)の調査によると、インターネットユーザーが検索に割く時間は、利用時間全体の5%にも満たないそうです。ネット利用時間のほんのわずかな間の中で、ユーザーの興味を引かなくてはならないことを考えると、リスティング広告に視線を向けさせることは決して容易ではないことが分かります。
現在Yahoo! JAPANの検索結果画面は変更され(テスト実施日は2008年11月26日)、リスティング広告欄と通常の検索結果欄が同じようなデザインで表示されるようになりました。このデザインであればユーザーはリスティング広告をクリックするのか、興味深いところです。
コンテンツに合った広告は視線をとらえる
口コミのように、ユーザーが記事に没頭してしまうようなコンテンツページでは広告は見られませんでした。しかし、それ以外のページにおいては、専門メディアでユーザーの関心にマッチする広告が出稿されていたらユーザーは広告を見る、という傾向が出ました。
図3は、価格.comでPCを探していた被験者B(男性、20代後半)の視線の動きです。口コミが書かれているページに到達するまでは、トップや右上に出ているPC関連の広告に視線を向けていました。アイトラッキングテスト後のインタビューでは、「PCを探していたときに出てきた広告なので見た」と答えています。
動画コンテンツと広告
図4は、ニコニコ動画(ニコ動)を閲覧中の被験者E(男性、20代後半)の視線の動きです。動画再生前に表示される広告が注視されていることがわかります。事後インタビューでも「この広告はとても印象が強かった」と答えています。
また、動画視聴後は視線が下部に移動し、アフィリエイト広告の「ニコニコ市場」も注視しているのがわかります。被験者は「アルパカのパロディ動画のページでアルパカの表紙の本(「初めてのPerl」)が紹介されていたので、おかしくてつい見てしまった。ニコ動では、面白い広告があるとつい見てしまう。ニコ動のバナー広告には、ニコ動のキャラを使った『ニコ動オリジナル』バージョンがあって面白い」と答えています。
動画1:ニコニコ動再を見ている被験者の視線。
動画再生後、下部にあるアフィリエイト広告を見ていた
動画再生中にページ内を色々見てしまったという経験のある人もいるのではないでしょうか。動画の貼ってあるページのように、1ページあたりの滞在時間が長いページでは、本来の目的以外の要素にもつい目がいってしまうようです。
また、被験者Eが答えているように、そのメディアのターゲットに合わせて広告をカスタマイズする手法(例:ニコニコ動画で人気のキャラクターを使ってほかのサイトに掲載しているものとは別の広告を作る、など)は、クローズドコミュニティのユーザーに刺さるのかもしれません。
今回のテストで、見られた広告とそれにまつわる要素、状況をまとめました。
「見られる広告」を考えるにあたって
ニコニコ動画では、前述した広告のカスタマイズ化だけではなく、特定の時間になると再生動画が一時停止し、広告が流れる「ニコ割(時報広告)」の販売など、ユーザーに見られる広告枠の開発に取り組んでいます。サイトを設計する際、「Yahoo!のブランドパネルが右上だから自社のサイトも同じ場所にしよう」というように、つい「広告はココ」と単純に決めてしまいがちですが、自社サイト内のコンテンツや要素を考えた上で、「どこに配置したら見られるのか」「どんな広告だったら見られるのか」を意識することが重要です。
本コラムは、奥井がCNET Japanにて連載している「視線が明かすウェブ制作の常識・非常識」にて2009年1月22日掲載された原稿です。
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