サービス・ドミナント・ロジックとは何か?
マーケティング戦略のフレームワークとしてサービスドミナントロジックという考え方があります。ここ最近、よく耳にするようになった言葉ではないでしょうか。サービスドミナントロジックとは、簡単に言ってみれば、事業や商品(製品)を、すべて「サービス」として捉えて見るという考え方です。
マーケティングの観点からは、この概念自体がものすごく目新しいものかというとそうではありません。マーケティングの大家セオドア・レビットは「顧客は、“ドリル”が欲しいのではなく、 “ねじの穴”が欲しいのだ」という有名な言葉を残してます。これも商品そのものの機能や性能そのものではなく、その商品に顧客が求める価値は何なのか?ということを考えよ、という箴言で、これはそのままサービス・ドミナント・ロジックの考え方に繋がるものだと言えます。
しかしながら、一般的にメーカーというのは、「モノ」を製造して、販売することが事業の根幹で、「サービス」というのはどちらかというと周辺的なものというか付加的なものという認識が強かったと思います。しかし、今や「モノ」の製造や販売だけでは、なかなか十分な利益を上げることも難しくなってきています。グローバル化の波での価格の低下や、新興国からの安価な製品の登場など、「モノ」にだけ主眼を置いていては、ビジネスが成り立たなくなってきたという背景があるのでしょう。サービス・ドミナント・ロジックにおいては、まず、その製品の利用場面や活用シーンなどを前提として、製品そのものの機能や性能ではなく、「サービス」全体の中で位置づけ、商品化していきます。
Amazonのkindleは製品ではなくサービス
たとえば、最近のわかりやすい事例で行くと、先ごろようやく国内でも発売が発表されたAmazonのKindleシリーズの製品はどうでしょう。Kindleは、所謂eブックリーダー、あるいは安いタブレット端末なわけですが、eブックリーダー単体の機能とか性能で販売してるわけではありません。AmazonのCEOであるジェフ・ベソスも言ってます。
キンドル・ファイアがただのデバイスではなく、サービスだからです。エンド・ツー・エンドのサービスであることで、ほかのタブレット端末と差別化できています。
私の個人的な意見ですが、ただデバイスを作っただけで顧客が関心を持つとは思えない。顧客が求めていること、顧客がしようとしていることは何か。書籍を買い、音楽を買い、映画やテレビ番組、アプリを買うことです。そのためにエコシステムを構築し、そのエコシステムにデバイスをシームレスに融合させる。顧客が簡単に見たいコンテンツを買って見られる環境を作るということです。それを実現したのがキンドル・ファイアなのです。
非常にわかりやすいサービス・ドミナント・ロジック主導でデザインされたサービスの事例と言えるでしょう。日本でkindleがなかなか発売されなかったのは、ここでベソスが言う「エコシステム」の構築に手こずったからでしょう。それがどれだけ高機能、高性能な端末であっても、「エコシステム」なしに発売されても意味がないと、Amazonは考えてるわけです。
ビジネスモデル的には、Amazonはkindle自体の販売で大きな利益を得ようとしてるわけではなく、Kindleを介してKindle Storeで購入されれるコンテンツからの利益を得ることを目標としてます。このへんがAppleのiPadと大きく違うところです。Appleは、iPadそのものから大きな利益を得るモデルを作ってます。
kindleは、iPhoneやiPadなどのアプリも無償で提供してます。一見すると、iPadはkindleの競合のように見えます。タブレット端末としてのみ、製品にフォーカスを当てて見ると、確かに競合でしょう。しかし、Amazonが狙ってるのは、あくまでもkindleという読書環境からの獲られるコンテンツの売上です。kindleという端末は、Amazonが提供する膨大なデジタルコンテンツ環境への接続端末の一つに過ぎないのです。だから、iPad端末にkindleアプリを提供して、そこからもKindle Storeのコンテンツが購入できるようにする、というのは彼らが描くサービスとしてはブレたものではなく、戦略上、きわめて重要なことなのです。
現在国内でもkindleストアがオープンし、スマートフォンやタブレットのkindleアプリでも購入した本を読めるようになっていますが、実際に利用してみると、Amazonがkindleをサービスとして位置づけてる理由や意味がよくわかると思います。kindleストアで本を買って、家でiPadで読む。その続きを通勤途中などは、iPhoneアプリで読む、というような1つのコンテンツを環境によって端末を跨いで利用できることの便利さは、ちょっとこれまでの電子書籍のサービスにはなかった心地良い経験をもたらしてくれます。
この体験そのものが、Amazonが売ろうとしてる「サービス」なのです。
kindleストア
http://www.amazon.co.jp/kindle-store/b/?ie=UTF8&node=2250738051
「シェア」という概念が広がっていくこと
また、ここ近年、所有から共有、購入からレンタルといった「シェア」といった概念も急速に広がりつつあります。サービス・ドミナント・ロジックみたいな概念が重要になりつつあるのは、こういう消費者(企業も)の意識の変化ということも大きいのかもしれません。「シェア」という概念そのものが、まさに「使用」や「利用」というところに価値が置かれてるからです。
いくら良いクルマを作っても、クルマを利用価値や使用価値から捉え直した場合、必ずしもクルマを購入する必要はありません。Zipcarのようなサービスは、クルマを所有(購入)することと、レンタカーでクルマを借りることの中間にあるようなサービスでしょうか。町中でのちょっとしたクルマの利用、数十分、数時間といった短い期間での使用といったところに焦点をあわせてサービスモデルがデザインされています。Zipcarは、そんなにヘビーには使わないけど、ちょっとちょっとクルマが使えれば便利だろうな、と感じてる人に、クルマを購入して保有する、という解決策以外の方法を提供したことで、成功を勝ち取ったのです。
今や、サービス・ドミナント・ロジック主導での商品づくりというのは普通になりつつあることなのかもしれませんが、まだまだこういった概念から精緻に見直せば、色々な発見があるのではないかと思います。
Zipcar
http://www.zipcar.com/
シェアからビジネスを生みだす新戦略
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4140814543/
サイクルシェア「かりおん」
私の家の近くに「出町柳駅」という駅があります。その駅そばに「かりおん」というレンタサイクル屋があるのですが、ここは単に観光客に時間で自転車を貸すだけではなく、出町柳駅を基点として通勤・通学する人を対象としたサイクルシェアというサービスも展開してます。
かりおん
http://carillonkyoto.com/
かりおんサイクルシェア
http://carillonkyoto.com/share.html
出町柳駅の駐輪場は自転車の場合で 月2,500円します。このかりおんのサイクルシェアは、出町柳駅の駐輪機能がついて1ヶ月2,500円です。しかも、自転車のメンテナンスはこのお店でやってくれます。パンクしても店に持っていけば無料です。
仮にあなたが自転車で出町柳駅まで行って、そこから通勤や通学をするという立場なら、自身の自転車で2500円の駐輪場を借りるか、このサイクルシェアサービスで2500円を払うか、どちらを取るでしょうか。このサービスもまさに、基幹駅からの通勤・通学での自転車の「利用」「使用」というところに着目してサービスモデルを組み立ててると言えます。
GEのヘルスケア事業
GEのヘルスケア事業は、基本的にはCTスキャナーやMRIなどの画像診断装置の供給をする事業です。従来のマーケティング戦略のフレームでは、いかに顧客ニーズに適う製品を開発するか、機能を搭載できるか、価格を安くできるのか、あるいは、どのようなディストリビューション&サポート体制をとることが最も効率的で効果的なのか、といった観点から事業戦略やマーケティングプランを組み立てていくでしょう。
GEはこのヘルスケア事業をサービスドミナントロジックから点検をして新しいサービスモデルを作り上げてます。
そもそもこういった医療機器というのは、トラブルがそのまま生命の危機に繋がる可能性のある極めてシビアなものです。そこでGEでは、これら医療機器をネットワークで繋いで、遠隔メンテナスができるような仕組み・サービスを構築したのです。これにより機器トラブルも短時間で解決できるようになりました。実際、故障の8割は瞬時に直せるようになったそうです。
面白いのは、GEはこのサービスを、自社製品だけではなく、他社製品にも適応するようにしていったところです。これにより、GEは、病院内の医療機器のサポート・保守全般を請け負う立場になっていくことになります。
今では、ヘルスケア事業内の「製品」の売上と、こういった「サービス」の売上は、1:1になり、利益では「サービス」が「製品」の2倍という収益性の高い事業モデルの構築に成功しているようです。
個々の製品の機能といったものも重要ではありますが、そもそもその機器を使用している医者、医療現場において何が重要か、何を求めているのか、という観点から、医療機器を「安全に動かす」「いざ、何か起きても瞬時に対応できる」という、医療現場の人々が求めていたものをきちんと提供した、というところにこの事業の成功要因があるのだと思います。
ECにも「サービス・ドミナント・ロジック」視点を
たとえば、ECなどでも、販売しているモノを「サービス」として捉えた場合に、どのような商品化が可能かということを考えてみると、まったく別の売り方やサービスが生まれるかもしれません。
すでにそういうサービスはありますが、幼児向け玩具を販売しているECなら、商品を買ってもらうよりも子供の年齢にあわせていくつかの玩具をレンタルするようなモデルの方が、成長するにあわせて毎度新しい玩具を買って、古い玩具を処分していくよりもずっと利に適ってるのではないかと考えられるかもしれません。
食品や雑貨を販売するネットスーパーなら、今日の献立と、その献立を作るのに必要な材料をセットにしてデリバリーするのはどうでしょうか。楽器初心者への楽器販売ならばオンラインレッスン等のサービスとの連携も考えられます。
最近だと、ファッションサイトなどでは、人気スタイリストの「コーディネート」も含めて販売していくといった取り組みも見られるようになってきました。
そのモノだけを手に入れても実現したいことが完結できるわけではないというモノに関しては、「サービス・ドミナント・ロジック」観点でのビジネスチャンスがあるのではないでしょうか。
既存の自分が販売してるのは、こういう「モノ」だという考えに縛られずに、そのモノを利用者はどのように使うのか、何のために買うのか、というところからサービスモデルを組み立てなおしてみると、また新しい発見があるのではないでしょうか?
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