8月のお盆に合わせて休暇を取る人も多いのではないでしょうか。最近は旅行代理店に行かずとも、インターネットで飛行機や電車、ホテルの予約ができるようになりました。ただそれは、はたして本当に「簡単」なのか?と突き詰めて調べてみると、どうやらそうとも言えないようです。ユーザーの不満を彼らの視線と共に検証していきます。
今回は被験者A~Eの5名に、「お盆に旅行をするつもりでサイト内から予約をしてください」というタスクを与え、「Yahoo!トラベル」「楽天トラベル」「じゃらん」をそれぞれ利用してもらいました。
写真は「穴の開くほどじっくりと」
被験者Eは、沖縄ツアーを楽天トラベルの中で検討しました。「ビーチリゾート特集」のバナーより、楽天おすすめのホテル一覧ページへと遷移しました。
このページでは、ホテルによって、
A:ホテルに付随するプールの向こうに豪華な建物が見える写真
B:前面に海がありその彼方に小さくホテルの建物が見える写真
のどちらかの構図による写真を使用していました。
彼女が詳細を見ようとしてクリックしたホテルは、一体どのホテルだったのでしょう?面白いことに、クリックされたホテルではすべて「B」の構図の写真を使用していたのです。
理由を尋ねると「プールの写真や建物の写真をメインに押し出しているってことは、それほど海に近くないとか、ビーチが汚いとか、何か理由があるんじゃないのかな?」という、興味深い答えが返ってきました。
ユーザーは現地に着くまでホテルを見ることができません。そのため彼らは1つ1つの写真や説明を、丹念に注意深く、それこそ穴の開くほどじっくりと見ているということに、サイト運営者は注目すべきです。
被験者Eのように全員が深読みをするとは限りませんが、「ビーチリゾート特集」というカテゴリの中でツアーを売るのであれば、やはりビーチに魅力を感じるような写真をセレクトするべきでしょう。写真の質や構図が悪いと、それだけでチャンスロスの要因となります。
また、口コミ情報もユーザーが真剣に閲覧する項目の1つです。
「同じホテルの情報しか載っていない」
楽天トラベルを見ていた被験者AおよびBからは、「同じ宿泊先ばかり出てくる」という不満の声があがりました。楽天トラベルでは、ツアーの検索結果一覧が「プランごとの表示」という形でまず表示されます。仮に、同じホテルにたくさんのプランがある場合、ページの大半が同じ宿泊先の情報となってしまいます。
こうしたページ構成の場合、上記の図2からも分かるように、ユーザーはほとんど視線を1カ所に留めていません。同じ一覧ページでも「施設ごとの表示」を採用していYahoo!トラベル(図3)での視線の停留と比べると、その差は歴然としています。楽天トラベルにおいても上部のタブから「施設ごとの表示」に切り替えて結果を見ることができますが、残念ながらそのタブそのものが注視されていないのです。インタビュー時に被験者へ指摘したところ、「そうだったんだ、今気づいた」というコメントが聞かれました。
他の被験者にインタビューをしても「プランではなく宿泊先から選びたい」という答えが大半でした。一覧表示では、宿泊先ごとの表示がまずあり、その中からプランを選べるという見せ方の方が、ユーザーニーズにかなっているようです。
「ここまでやったのに……」
下記は、楽天トラベルにて被験者Eが沖縄ツアーを比較する視線の動きです。「ホテル一覧ページ→特定のホテルページ→ホテル一覧ページ」という行動を繰り返しています。青い点が上下左右に細かく揺れ動いていますが、これは何かを探す時の目の動きです。
楽天トラベルにて被験者がツアーを比較する視線の動き
被験者が探していたもの、それはツアー価格です。
ページ上部に価格が表示されていますが、彼女は「下に書かれたツアーがすべてこの価格なの?」というコメントをしています(よく見ると「沖縄かりゆしビーチリゾート」の価格であることが分かりますが、被験者には理解できていませんでした)。
楽天トラベルの「ANA楽パック」(パッケージツアー)では、まずホテルを選び、プランを選び、日付や人数、出発地を選んだ末に、やっと料金が分かる仕組みになっています。被験者Eは、これら一連の流れをすべてした結果、思っていた以上に金額が高く、結局行き先を考え直すことになってしまいました。「ここまでやったのに……」と、被験者Eはがっかりしてしまいました。
価格は旅行を決める際の大きな要因です。ページを何枚も遷移して、いくつもの選択をした挙句に「予算オーバー」では、ユーザーが大きなストレスを感じてしまいます。例えば「9万8000円~1万9800円」 のように、早い段階で価格の幅を提示してあげることが重要です。
トップページに必要なのは
トップページにおいては、「行きたい場所」から選ぶユーザーと、「日付」から選ぶ被験者がおり、どちらの入口も活用されていることが分かりました。場所から選ぶユーザーに対して、楽天トラベルとじゃらんでは日本地図による入口を用意しています。Yahoo!トラベルではプルダウンで県名を選ぶような仕様になっていますが、「地図をクリックする方が視覚的、感覚的に選びやすい」という意見が多数でした。
トップから特集バナーをクリックしたユーザー(女性被験者2名)もいました。「旅行に行きたいけど、どこ行こうかな?」と考えている潜在顧客に対しては、このような入口も有効だということ分かります。
またYahoo!トラベルのナビゲーションにおいて、「航空券付きのツアーを選びたいが、どこを押したらいいのかすぐに分からなかった」というコメントが聞かれました。「国内航空券」「航空券+宿泊」「国内ツアー」など似たような文言がいくつもナビゲーションに並ぶと、ユーザーは直感的な判断が難しくなります。例えば、楽天トラベルのように文言の横にアイコンをつけることで、分かりにくさを軽減できます。
図4:Yahoo!トラベル(上)と楽天トラベル(下)のナビゲーション
の違い。画像中の赤枠は筆者が加えたもの。楽天トラベルのように
アイコンを付けると、ユーザーに分かりやすくなる(それぞれの
画像をクリックすると拡大します)
旅行=実物のない高額商品
上記は、今回のテストに基づき注視されていた要素をまとめたものです。旅行は、高額商品にも関わらず購入前に実物を見ることができません。そのため口コミ情報はどのユーザーも真剣に閲覧しており、これは予想通りの結果でした。
必要要素としてまとめると然るべきという結果ですが、写真の質を上げる、写真の枚数を増やす、アメニティ情報(「荷物を多くしたくないので寝巻がないところは嫌だ」というコメントあり)や周辺情報(駅から遠いのか、観光地までの時間は徒歩で何分なのか、など)の詳細を伝えるなど、小さなことですが細かい配慮がコンバージョンに大きく寄与するといえます。
本コラムは、奥井がCNET Japanにて連載している「視線が明かすウェブ制作の常識・非常識」にて2008年7月29日掲載された原稿です。
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