2007年11月08日
アイデアツールを経営に活かす6つのポイント ~ 自社ツールを公開しよう!後編
宮永 邦彦
アイデアマンズ株式会社
前回はちょっとしたアイデアをツールというソフトウェアに仕上げていくための5つのポイントをお話しました。後編の今回は、お金をかけずにそのツールのプロモーションを行うポイントをお話します。
・自社ツールを公開しよう!~前編「アイデアを形にする5つのポイント」
http://dragon.jp/column/archives/miyanaga_071011.html
「個人でちょっと作ってみた」レベルのツールであれば、公開後のことをそこまで意識する必要もないでしょう。しかし会社として公開する場合は、あらかじめツールが及ぼす影響や、成果を最大化する方法を事前に考えておくことが大切です。
開発したツールをダウンロードできるようにしているだけでは、アイデアを形にしたとは言えません。そのツールを必要とする人に気づいてもらい、使ってもらい、満足してもらって初めてツールは完成します。そして会社としてツールを公開する場合、有料化には大きな魅力がありますが、一方でクリアしなければならない課題も多く存在します。有料化のために必要なこと、有料化のメリットとデメリットも整理しましょう。
ニーズと仕様を突き詰める
まず思いついたツールのアイデアの中から、どれを実際に形にしていくのかを選定しなければなりません。やはり、需要の高いものから優先して形にするのが妥当ですが、そのニーズを評価して、どういう切り口で仕様に落とし込んでいくかを十分に考える必要があります。ニーズがないツール、ニーズの切り口を間違ったツールは、完成後のプロモーションに苦労することになります。
たとえば、社内の作業に不便があってニーズを感じたときは、そのニーズが自社独特のものなのか、一般的なものなのかを見極めます。同業他社に知り合いがいれば、同様の作業をどのように進めているかを聞いてみるだけでも、そのニーズの強弱を感じることができます。
検索エンジンやキーワードアドバイスツールも活用します。検索しやすいニーズかどうか、というのは公開後のプロモーションにとっても重要なポイントになります。人気のあるキーワードの組み合わせを調べることで、仕様の切り口を決める大きなヒントにつながります。
また、検索して同じような悩みに言及しているブログがあれば、そこに書かれた記事も仕様を固めていくためのヒントになりますし、完成後、そこにトラックバックを打つことでそのツールについても言及してくれる可能性が高くなります。コメントで意見を求めてみるのもいいでしょう。
認知を広める
検索しやすい仕様に落とし込んでSEOを計ることで、じわじわと認知を広めていくことも可能です。しかしこれまでいくつかのツールを実際に公開した経験から言うと、どこかで大きな露出を得て一気に認知が広まったときに初めて、そのツールが市民権を得たという感覚が強くあります。
弊社アイデアマンズのシェアウェア「WebScan」やフリーウェア「AreaEditor」は、Windows向けのオンラインソフトなので、オンラインソフト紹介サイト「窓の杜」に取り上げてもらったときに一気に認知が広がりました。WebScanの例では、2002年11月に紹介されたその日に、3,000件以上のダウンロードがありました。
・WebScan
http://www.ideamans.com/webscan/
・AreaEditor
http://www.ideamans.com/areaeditor/
・窓の杜
http://www.forest.impress.co.jp/
窓の杜では新作ソフトウェアの自薦・他薦を常時受け付けています。同じくオンラインソフトのダウンロードサイト「ベクター」の「新作ソフトレビュー」に取り上げられたとき場合も、多くのアクセスが見込めるでしょう。
・新着ソフトレビュー
http://www.vector.co.jp/magazine/softnews/ (ベクター)
他にもその分野の有名ブログに持ち込みをする方法などもあるでしょう。ニーズを突き詰めると同時に、公開後はどこで露出を計るか、どうしたらメディアが取り上げたいと思うツールになるかを意識することが大切です。
見込み客をつかむ
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開発したツールをダウンロードするページでは、メールアドレスを収集する仕組みを用意することをお勧めします。ダウンロードの際にメールアドレスを入力させることには賛否両論ありますが、ツールに興味を持ってくれた人たちとのリレーションを作る上で欠かせないと考えています。
メールアドレス入力の求め方にはいくつかの段階があります。ひとつは任意に入力を求める方法、もう一つは必須にする方法、そして必達を条件にする方法です。必達を条件にする場合は、まずメールアドレスを入力してもらい、自動送信したメールにダウンロードのURLや方法を記載します。
収集したメールアドレスのリストには、ツールのバージョンアップ情報や、そのツールに興味を持ってくれた人にお勧めできる情報を配信します。もちろん、そのツールに関係のない情報を送るのは論外です。
有料化 - 不正利用を防ぎ購入者の権利を守る
有料化の際には、ライセンスキーに代表される「不正利用を抑制して購入者の権利を守る仕組み」が必要になりますが、現実問題としてプログラム上の仕組みで不正利用を完全に抑制するのはほとんど不可能です。実際、WebScanにおいても不正利用の痕跡は少なくありません。
しかし、日本でも近年、ソフトウェアの不正利用に対する取り締まりが強まっており、ソフトウェアの著作権に対する意識は高まっているのを感じます。音楽配信サービスでは、iTunesのように厳格な著作権保護機能を設けず、フェアユースの尊重を支持する動きが目立っています。あまり複雑な仕組みを導入するのはトレンドではありませんし、興味を持ったユーザーも離れてしまいます。
ひとつの結論として、私たちアイデアマンズでは「ライセンスキーの仕組みはそのソフトウェアが有償であることを分かりやすく示すサインに過ぎず、不正利用を行うユーザーはお客様として相手にしない。ライセンスを大切にするお客様を大事にする」というスタンスを採用しています。不正利用をある程度追跡することもできますが、そこに労力を割くよりは、真摯なお客様にお応えする時間を大切にしています。
有料化 - 決済の仕組み
ツールを有料化するときには、当然ながら決済の仕組みも必要になります。高額で販売数も少ないのであれば請求書による個別対応でも十分ですが、少額に設定する場合には、決済をいかに省力化するかが重要なポイントになります。
また、少額に設定する場合はクレジットカード決済と銀行振り込みが必須です。コンビニ決済を選択するお客様も多くはありませんが一定数存在します。少額であれば法人のお客様でもクレジットカード決済やコンビニ決済を選択することが少なくありません。
しかし、自社で独自に決済の仕組みを持つことは決して簡単なことではありません。決済ごとの課金が発生しますが、シェアウェアであればベクターのシェアレジを利用したり、ダウンロード販売をサポートしたEC代行サービスを利用するのも有効な選択肢です。
・インフォカート
http://www.infocart.jp/
そして法人向けに販売する場合は、各種帳票を求められることがよくあります。見積書・請求書・納品書・領収書をすぐに用意できる仕組みが必要です。決済が少額だとExcelで都度作成するのでは割に合わないので、「弥生販売」などの販売管理ソフトウェアの活用も視野に入れます。
・弥生販売
http://www.yayoi-kk.co.jp/products/dealing/
ちなみに、ドネーション(寄付)を求める手法がありますが、これはよほど有名なツールにならないかぎり、収益はほとんど期待できないと思った方がよいでしょう。累計数万本がダウンロードされたAreaEditorでは当初、控えめながら寄付を募っていましたが、実際の申し出はありませんでした。
有料化 - プロモーションの問題
有償ソフトウェアの意外な弱点に、伝播力の低さがあります。有償であるということだけでブログやメディアでの取り上げられ方が一気にトーンダウンします。おそらくクチコミも同様でしょう。
無償であればお得な情報として気軽に紹介できますが、有償だと紹介する方も値段に対する効果にある程度責任を持たなければならないので当然です。
シェアウェアであるWebScanとフリーウェアであるAreaEditorでは、窓の杜掲載後のGoogle検索ヒット数の伸びに非常に大きな差がありました。雑誌掲載のオファーの数にも雲泥の差があります。有償ソフトウェアの認知を広めるためには、広告などを利用しないと難しいのかもしれません。
特に海外には、簡易な無償版と高機能な有償版の両方を用意しているソフトウェアが目立ちます。無償版は気軽に試してもらうという目的と同時に、プロモーションの目的も兼ねているのだと思います。
今であれば、はじめはベータ版として簡易版を無償で公開し、その後、高機能・高性能・特殊用途向けの有償版をリリースするステップを踏むのがよいかもしれません。有償版をリリースするときに、メールアドレスを収集しておいたことが活きてきます。
以上、ツールを開発する前に考えるべき「公開した後に何が起こるか」というお話と、有料化に伴う問題提起でした。実際にアイデアマンズではツールを公開していることで自社サイトに毎月数千人のアクセスを得ています。PRや広告の効果に換算すると、決して小さくはありません。普段のお仕事の中で培ったノウハウを、ツール公開という形で活かしてみてはいかがでしょうか。
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