2008年01月10日
2008年は血の通うインターネットへ - アイデアマンズアイデア(24)
宮永 邦彦
アイデアマンズ株式会社
週刊e-Reportで月一回の連載枠を頂いて、ちょうど2年が経過しましたが、今回を持って、本連載は一旦おしまいとなります。
2年前の2006年は、1月16日のいわゆる「ライブドア・ショック」から幕を開けました。当時はIT業界全体に対する不信を招くのではないか?と気を揉んだりもしましたが、今は遠い過去のようにも感じます。そしてこの2年間のネットビジネスには、次はブログだ、SNSだ、フィードだ、メタバースだ、動画だ、クロスメディアだ、と話題に事欠かず、様々な予測が飛び交いました。
・IT業界で働く人が選ぶネット話題語ランキング (2006年)
http://www.rankingjapan.com/ranking.php?page=746 (ランキングジャパン)
・東京IT新聞的 ’07年流行語大賞
http://itnp.net/category_betsu/24/829/ (東京IT新聞)
では、2008年は何が来るだろう?と考えてみると、どれも一巡した感があって、決定的な話題が見あたらないなぁ…と、そんな風に感じています。読者の皆さんはいかがでしょうか?
同時に、そういった数々の話題を経て、インターネットユーザー全体のリテラシーが、またずいぶんと向上したなぁと強く感じています。インターネットと直接関係のない業界にいる友人・知人でも、ほとんどが「ミクシィ」や「ユーチューブ」と言えばすぐに話が通じるようになりました。まるでYahoo! 並みの知名度です。mixiを運営する株式会社ミクシィ(旧・株式会社イー・マーキュリー)が生まれて間もないSNSサービスを力点に上場を決めたのも象徴的な出来事でした。
・ついにミクシィが9月14日に東証マザーズ上場
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20200687,00.htm
(CNET Japan)
この1、2年の間に、テレビや紙媒体などマスメディアの広告を見ていても、「○○で検索」というネットへの誘導の手法が一般的になりました。「検索エンジンを使う」という行為が「マスメディアに触れる」機会と同じように、消費者にとってごく当たり前のアクションとして市民権を得た一例です。
また、「顔ちぇき」や「脳内メーカー」といった、(言葉は悪いですが)一発芸的なサービスが、リアルの世界でも、広告の力を借りずに短期間で流行するケースが目立ちました。もちろん、SNSという個人による表現の場があってのことで、ブームのきっかけになるのはテレビや新聞の影響が強いのですが、そもそも視聴者がそれを求めているという現れでもあります。一時期、セカンドライフの報道が相次いだときも、時代の変化を感じました。
・顔ちぇき
http://www.j-magic.co.jp/01_media/kaocheki.html (ジェイマジック)
・脳内メーカー
http://maker.usoko.net/nounai/
・今年最も流行した単位は「ギガ」、最も印象的なニュースは「脳内メーカー」
http://markezine.jp/a/article/aid/2429.aspx (MakeZine)
これまでインターネットが本当に好きで、そういった新サービスにまで詳しい人というのはいわゆる「オタク」か業界人か、とにかくマイノリティな層でした。もちろん、その層が今もマイノリティであることには変わりはないのですが、こういった変化は、リアル世界にいるマジョリティ、いわゆる「普通の人たち」のインターネットリテラシーがずいぶん向上した現れのように思います。
インターネットのリテラシーが向上したと一言に言っても、単に個々人の知識や技能が向上しただけではなく、人々がインターネットを使う動機が変化したことにも大きな意味があります。
たとえば、mixiに熱中すると反応が気になり、暇さえあればログインするようになります。今、mixiはPCからの閲覧より、携帯からの閲覧が多いと言われていますが、外出中でもログインしてチェックしている人がとても多いことが想像できます。その結果、「ミクシィ疲れ」という現象も取りざたされるようになりました。YouTubeも、つい時間を忘れて好奇心を満たすために次々と動画を探してしまいます。Wikipedia
なども同様です。
・ミクシィ中間決算、mixi会員数は約1,190万人。PVは携帯電話がPCを上回る
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/11/09/17470.html (INTERNET watch)
・「mixi疲れ」を心理学から考える
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0607/21/news061.html (ITmedia)
そこには、人とのつながりを求めたり、好奇心を満たすための「渇望」や「中毒」という表現が似合う強い感情が潜んでいるように思います。
自己啓発系の書籍ではおなじみですが、心理学者のアブラハム・マズロー氏が提唱した有名な理論に「欲求段階説」があります。人が持つ欲求は、低次にある生理的欲求から順に満たされて行き、満足の強い、よい生き方に近づいていくという理論です。
低次の欲求
│
│(1)生理的欲求「衣食住など根源的な欲求」
│(2)安全の欲求「生存を脅かされず、安全に生きたいという欲求」
│(3)親和の欲求「他人と関わりたい、集団に帰属したいという欲求」
│(4)自我の欲求「認められ、尊敬されたいという欲求」
│(5)自己実現の欲求「自分の能力を活かし、成長したいという欲求」
↓
高次の欲求
・自己実現理論
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E5%B7%B1%E5%AE%9F%E7%8F%BE%E7%90%86%E8%AB%96
mixiやYouTubeといったCGMサービスの人気を見ていると、多くの人がインターネットを通じて、(3)親和の欲求、(4)自我の欲求、(5)自己実現の欲求という、高次の欲求を満たし始めているのを感じます。そこには、単に新しい技術という枠組みを超え、人がよりよく生きる上での欲求を満たす、血の通ったツールとしてのインターネットの姿が見えます。
2008年のネットビジネスを予測したり、新しく社会に求められるサービスを考えるには、「そういった高次の欲求を満たす他の形はないか?」という問いかけを続けていくことが重要ではないでしょうか。自分自身もそんな夢を抱き、人がよりよく生きるためのサービスを考えながら、これからもネット業界に携わっていきたいと思います。
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